2025年8月9日土曜日

「死を拒絶する社会が、未来を食い潰す」

ー認知症と医療行為の再設計ー


1. はじめに:この問題に「感情」は不要である

今から述べることは、倫理でも福祉でも、ましてや人情でもない。
これは、社会の設計ミスに対する、構造的な是正提案である。

認知症が進行し、もはや自己の意思判断も、感情の連続性も維持されていない人間に対して、現在の社会は当然のように医療資源を投入している。
延命処置はもちろん、点滴、抗生物質、褥瘡(じょくそう)対策、感染症予防まで——

だが問いたい。
それは本当に“人間”に対する医療なのか。
それとも、ただ「死なせたくない」という社会的未練と制度的惰性に支えられた、無意味な運用なのではないか。


2. 現在の医療制度の構造的誤り

医療は、本来「回復を前提とする介入」である。
だが現実には、“ただ生きている”という状態だけで無制限の介入が許されている。

認知症患者の医療は、以下のような矛盾を孕む:

  • 回復不能であるにもかかわらず、治療行為が日常的に行われる

  • 痛みや苦しみの自覚がない可能性が高くても、苦痛緩和目的の処置が当然視される

  • 介護職員・医師・看護師の人手は奪われ、医療財源は底なしに吸われる

このような状況が当たり前になったのは、ただ一つ——
「命は無条件に守られるべき」という非合理な信仰が、制度に組み込まれているからだ。


3. 認知症とは何か——人格の崩壊と主観の死

認知症とは、記憶、思考、判断、感情の統合性が失われ、
“自己”という存在そのものが崩壊する病である

本人が何を感じているかすら、周囲は正確に把握できない。
ましてや、意思表示もできず、幻覚や妄想に苛まれ、叫び、掴み、暴れ続ける。
これはもはや、「人間の外形をした、自己なき生理反応」であると言って差し支えない。

それを、“人間として扱い続ける”ことのほうが、むしろ侮辱的である。


4. 延命医療の定義と再設計

提案するのは、**「主観を喪失した者に対する医療行為の原則停止」**である。

具体的には:

  • 認知症の進行が重度となり、本人の意思確認が不可能な状態においては、
    治療目的の医療行為(抗生物質投与、心拍維持処置、再発予防的医療など)を停止する

  • ただし、介護行為(清潔の保持、転倒防止、褥瘡ケア、栄養摂取)は継続される。

  • この判断は、医療的指標と第三者機関の審査により運用可能とする。

この設計変更により、社会資源の再配分が可能となる。


5. 「冷酷だ」という批判への回答

予測される反論の第一は「冷酷だ」「人権の侵害だ」である。

だが、こう問いたい:

  • もはや自らの人格を維持できない者が、本当に“人”として存在しているのか?

  • その存在を苦しみながら維持させられているのは、誰のためなのか?

  • 本人の尊厳を失わせてまで、“生きさせること”が善なのか?

むしろこの提案は、「死を許すことで、生を尊重する」という構造的な慈悲である。


6. 社会的コストの試算と、未来への再配分

日本の医療費約45兆円超のうち、高齢者医療は約40%を占める。
そのうち、認知症患者の医療費は少なく見積もっても数兆円規模

加えて、介護職員の人手不足、若者の福祉財源圧迫、医師の過労、家族の経済的負担——
全方位で「限界」はとうに越えている。

それでも、“見ないふり”をしているだけだ。


7. 倫理を超える次元へ——設計思想としての死の合理性

自然は、死を受け入れる。
死は淘汰であり、更新であり、流動性を保つための不可欠な機構だ。

ところが人間社会だけが、死を「失敗」とし、「否定」し、「拒絶」し続けた。
その結果、「生きていること」だけが盲目的に正義となり、
魂のない肉体が延々と維持され、未来が損なわれる設計ができあがった。

そろそろ、終わりを受け入れる設計に戻すべきだ。
それが自然に回帰することであり、文明として成熟することでもある。


8. 結論:人権の“神話”を脱し、人間の本質へ

「生きているから守る」という人権信仰は、ある段階を越えればただの構造的暴力に転化する。
命とは、「意味」と「主体性」がなければ、定義できない。

構造としての死を取り戻すこと。
それは、人間の尊厳を守るために、最も合理的で、最も人間的な選択である。

これが、死を拒絶し続けた社会への、構造的回答である。

日米「交渉」の虚構――追加関税は“懲罰”であり、対等な取引ではない

「交渉」ではなく、力の行使

今回の追加関税問題は、多くのメディアで「合意文書を交わさなかった失策」と指摘している。だが、根本には別の問題が横たわっている。

そもそも日米間には本当の意味での交渉は成立しない
あるのは、強者が条件を一方的に決め、弱者がそれを飲むかどうかという力関係だけだ。


📉今回の構図

  • 米国:ルールメーカー。条件設定権を持つ。

  • 日本:条件受諾か拒否しかできない。拒否すれば報復カードが切られる。

この枠組みでは、条件の変更や新たな負担は「交渉」ではなく、事実上の通知に過ぎない。


🧨「機嫌」を損ねた弱者の末路

石破首相は街頭でこう発言した。

「(アメリカに)舐められてたまるか!」

国内向けには強気に見えるかもしれない。
だが、強者—弱者関係の国際政治において、これは交渉カードではない。
むしろ、強者の機嫌を損ねる信号として作用する。

米国側の多くの要人は、こう思ったはずだ。

「自国すら守れない国の首相が、何を言っているのか」

もちろん、その自国防衛力を奪い続けてきたのが米国自身であることは棚に上げたまま。


💥追加関税は“懲罰”である

今回の「現行税率+15%」という上乗せは、
単なる経済的要求ではなく、見せしめ的な懲罰の意味合いが強い。

  • 日本に対して「立場をわきまえろ」というメッセージ

  • 他国に対して「逆らえばこうなる」という警告

これは交渉決裂ではなく、支配関係の再確認だ。


🧠「交渉」ではなく「条件通知」

こうして見ると、今回の出来事は「日米交渉」という言葉すら不正確だ。
本質は、米国からの条件通知と、その条件に従わざるを得ない日本の姿だ。

「文書を交わさなかった失策」という分析は、あくまで平等な交渉関係を前提にしている
だが現実は、その前提が最初から存在しない。


🔚結論:虚構を直視せよ

  • 日米間には、形式上の交渉はあっても、実質的な対等性はない

  • 強者の機嫌を損ねれば、報復は即座に下る

  • それが「現行+15%」の追加関税という形で可視化された

この現実を「交渉の失敗」や「合意文書の不備」といった次元で語る限り、
日本はいつまでも同じ轍を踏み続けるだろう。

2025年8月6日水曜日

「価格転嫁で賃上げ」は詐術――なぜ庶民が“賃上げ原資”を払わされているのか?

 「価格転嫁で賃上げを実現せよ」

最近の政府は、企業に対してこう叫んでいる。
「賃金を上げるために、価格を上げろ」と。

一見、賃上げを後押ししているように見えるこの方針。
だが、冷静に考えてみてほしい。

その“価格転嫁”のツケを払っているのは誰か?


📦価格転嫁の構造

価格転嫁とは、企業が上昇した人件費・原材料費を商品価格に反映させること
つまり、「賃上げしたから、その分値上げします」ということだ。

では、その値上げを負担するのは?

  • 企業ではない

  • 政府でもない

  • 消費者(=庶民)である


🧨政府の主張を翻訳すると、こうなる

「経済は拡大できないので、庶民から搾り取って、給料を上げてください」


🧠本来あるべき順序は、逆である

  1. 政府が通貨を発行し(国債)

  2. 実体経済(公共事業・福祉・教育など)に投資し

  3. 雇用と所得を生み

  4. 民間企業も利益を得て自然に賃上げが進む

  5. 可処分所得も増え、消費が回る

これが健全な経済循環である。


💣だが今の政府は、こう言っている

  • 通貨は刷りたくない

  • 財政出動はしたくない

  • でも賃上げはしてほしい

だから「お前たち(企業)が値上げして、庶民からむしり取って、その分給料に回せ」となる。


📉その結果どうなったか?

  • 商品価格は軒並み値上がり

  • 名目賃金は一部で上昇

  • だが実質賃金は2022年4月以降ほぼマイナス(2025年8月時点)

  • 生活は苦しくなるばかり

それでも政府は「賃上げが進んでいる」と言い張っている。


🎭これはもはや経済政策ではない、「詐術」である

  • パイを大きくせず

  • 奪い合いの中で“成功したふり”を演出する

そんな賃上げは、社会を疲弊させるだけだ。


✊問うべきは、ただ一つ:

なぜ政府は通貨を発行して経済を拡大しようとしないのか?

その問いなしに、「賃上げ」など成立しない。

「通貨を刷らずに稼ぐ国家」は可能か? ソブリン・ウェルス・ファンド構想の幻想と現実

 「国家がファンドを持ち、稼いで財源を確保する時代に入った」

公明党岡本三成政調会長は、政策対談動画の中でこう語った。

「財源を探す時代から、財源を作る時代に移行していきたい」

まるで企業のように、国家が「運用益」で予算を賄っていくビジョンである。

だがこれは、一見斬新に見えて、実は極めて危うい幻想だ。


🧠ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)とは?

国家が保有する資産(外貨、税収の一部、資源収入など)を株式・債券などに投資し、運用益を得る政府系ファンド。目的は以下の通り:

  • 将来世代のための貯蓄

  • 経済ショックへの備え

  • 社会保障の財源確保

  • 国際的な影響力の獲得

世界最大規模のSWFは、ノルウェーの**政府年金基金グローバル部門(GPFG)**である。


🇳🇴ノルウェー型と日本構想の違い

項目    ノルウェー    日本構想
原資    石油・ガス収益(外貨)    不明(外貨準備?年金資産?)
財政政策    資金を国内に流さない設計    財政出動の代替手段としての運用
リスク姿勢    極めて慎重、堅実な投資方針    財源確保目的でハイリスク化の恐れ
国民理解    高い合意形成、透明性    検討段階での議論不足、説明不足

🧨なぜ「ファンドで稼ぐ」という発想が生まれたのか?

答えは明確だ。

国債=悪、という誤った財政観が根を張っているから

  • 通貨発行を拒否し、

  • 増税は避けたい(選挙がある)

  • ならば「市場で稼げばいいじゃないか」という逃避的アイデア

これは国家が統治者から投資家に堕落する構造である。


💣危険な副作用

  1. 国の役割の放棄
     市場任せの運用益頼りでは、財政政策も再分配も機能しない。

  2. 運用失敗=国民の損失
     リスクは取るが、保証はしない。

  3. 資産インフレの加速
     国家マネーが株や不動産に流れ込めば、価格は吊り上がり、庶民の生活は苦しくなる。

  4. 富のさらなる集中
     運用益は一部資産層に集中し、格差が拡大する。


🎭ファンドに頼る国家は、政策的敗北を意味する

本来、財源が必要なら:

  • 通貨を発行し

  • 国内の実体経済に投資し

  • 生産性と賃金を上げて

  • 税収を増やせばよい

それが国家としての筋道である。


🔚結論:SWF構想の本質は「通貨発行忌避の言い換え」にすぎない

稼ぐ国家という言葉は聞こえは良いが、
それが「金を刷りたくないから市場で勝負する」という発想に基づいているならば、
それはもはや統治放棄の精神的逃避だ。


「利益配分1:9」で最大86兆円―日米半導体交渉の真実と、日本政府の“マインドセット”

 「アメリカへの投資はチャンスだ」というマインドセットの裏にあるもの

公明党の岡本三成政調会長は、関税交渉の結果アメリカへの投資が求められたことについて、こう語った。

「アメリカに投融資できる機会を得た、とマインドセットを変える事が重要」

一見すると前向きな提案に見えるが、実態を知れば知るほど、この発言が「自己洗脳」に近いものであることが明らかになる。


📄明らかになった実態:最大5500億ドル(≒86兆円)、リターンは1:9

内閣官房が公開した「第6回日米関税交渉の結果概要」(令和6年7月25日)には、以下の文言がある:

日本は、政府系金融機関が最大5500億ドル規模の出資・融資・融資保証を提供することを可能にする。
出資の際の利益配分は、日:米=1:9とする。

このスキームの本質は明白だ。

  • 資金の大半(80兆円超)を日本側が提供

  • リターンの大半(90%)をアメリカ側が享受

  • 「可能にする」という文言は、制度設計済=実行を前提としたフレーム


🧨これは「金だけ出して口は出せない」植民地型スキーム

一言で言えば:

日本の国富を使ってアメリカの産業を育てるスキーム

日本国内には雇用も技術移転も約束されていない。
これはもはや「共同投資」ではなく、「献上」である。


しかもこの巨額投資に国債は使われない

拠出の原資は以下のいずれかになると推測される:

  • 外貨準備高

  • 政府系金融機関(JBIC、日本政策投資銀行など)の融資枠

  • 年金・郵貯などの準公的資産の動員

つまり、民主的な財政審議も経ずに、国民の金融資産が流用される構造である。


結論:「マインドセットを変えよう」は、搾取受容の自己催眠である

本件の本質は、以下の一点に尽きる。

通貨を発行したくないという“思考停止の国家”が、国民資産を使って他国を支援しているという異常

その異常を「チャンス」と言い換えるために使われているのが「マインドセットの転換」という言葉である。

これほどの裏切りに対して、私たちは「前向きに受け入れろ」と言われている。


国家に必要なのは“ファンド”ではなく“責任ある通貨主権”

もし本当に未来のための財源を確保したいのなら:

  • 通貨発行の正しい理解と活用

  • 国内再投資による成長基盤の構築

  • 政治的責任の明確化

  • 実態に基づいた外交交渉

これらこそが、国家にとって真の「チャンス」である。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/tariff_measures/dai6/250725siryou1.pdf