「消費税は、最終消費者が負担する公平な税です。」
制度の説明はいつもこの一文から始まる。だが、この言葉をそのまま信じてよいだろうか。
日本の消費税制度には、「輸出戻し税」という仕組みがある。表面上は会計的にも理論的にも整然としている。けれど、その運用実態をのぞくと、静かに社会の血を吸う構造が見えてくる。
■ 輸出戻し税とは何か
消費税は「売上にかかる消費税 − 仕入にかかる消費税」で納税額を計算する。
たとえば国内取引であれば、事業者は消費者から受け取った消費税を国に納め、仕入で支払った分を差し引く。
しかし輸出の場合、「海外で消費される商品」なので、売上には消費税がかからない(=税率0%)。
そのため、仕入にかかった消費税だけが残り、帳簿上は「払いすぎ」となる。
これを国が還付する──これが「輸出戻し税」だ〔※1〕。
この仕組み自体は、国際的にも一般的な制度である。
問題は、その“実際の経済構造”を無視して設計されている点にある。
■ 誰が本当に消費税を払っているのか
トヨタをはじめとする巨大輸出企業は、仕入先・下請けに対して圧倒的な価格決定権を持つ。
「消費税率が上がったので、単価を上げてほしい」と中小企業が交渉しても、ほとんどの場合は拒否される。
彼らは“税率上昇を理由にした値上げ”を認めない。
その結果、下請け側は「税込価格のまま据え置き」の取引を続けることになる。
つまり、消費税10%分(売上の1/11)は、自社の売上の中から支払っている。
消費者が払うどころか、価格転嫁できない中小企業が実質的に負担しているのだ〔※2〕。
一方、最上流の輸出企業はどうか。
彼らは国内で仕入れた部品や素材に含まれる消費税を、すべて「仕入税額控除」として申告し、輸出取引で課税されない分をまるごと還付される。
つまり、下請けが負担した消費税が、最終的に上流企業の利益として戻ってくる。
この構造を“制度上の中立性”と呼べるだろうか?
■ 会計上の整合性と、現実の非対称性
会計的には辻褄が合っている。
税務署の帳簿上は、「課税売上ゼロ ⇒ 仕入控除 ⇒ 還付」で完全に整合している。
だが、実体経済はそう単純ではない。
取引価格は、契約上・交渉上の力関係によって決まる。
この“力の非対称性”を税制が無視した瞬間、帳簿上の公平は現実の不公平に転化する。
消費税率が上がるほど、下請けは苦しむ。
価格転嫁ができない分、実質負担が増える。
それでも輸出企業の還付額は膨らむ。
税率引き上げは、中小企業への実質増税であり、大企業への補助金拡大なのだ。
全国商工団体連合会の調査によれば、上位20社だけで年間2兆円を超える還付金を受けている年もあるという〔※3〕。
この金額は、地方中小企業の救済予算をいくつも凌駕する規模だ。
しかも、還付の透明性は極めて低い。どの企業が、どれだけの額を受け取っているのか、公的データはほとんど公表されていない。
■ 消費税が「国内産業を削る税」になっている
消費税は、消費者を苦しめるだけではない。
むしろ深刻なのは、国内産業の体力を奪っているという点だ。
利益率の低い中小企業は、税率上昇分を吸収しきれず、賃上げも投資もできない。
コスト削減と人件費抑制の悪循環が続く。
その一方で、輸出戻し税による還付で潤う上流企業は内部留保を積み上げ、国内循環よりも海外投資に資金を回す。
こうして、消費税が「外需中心・内需衰退」モデルを固定化する構造要因になっている。
本来、健全な経済は内需の循環に支えられる。
中小企業が利益を上げ、賃金が上がり、消費が回る。
だが、現行の消費税制度はその循環を断ち切り、国民の血流を輸出企業の利益へと導く“逆流構造”になっている。
■ 改革の方向:透明化と廃止を前提に
制度を正すには、まず実態を明らかにする必要がある。
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輸出戻し税の還付総額・企業別内訳を公開する。
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下請けへの価格転嫁拒否を違法化し、罰則付きの取引適正化を進める。
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還付を“自動”ではなく、実際の付加価値比率に応じた段階的控除制度に改める。
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それでも抜本的に不公平が解消できないなら、消費税そのものを廃止する。
実際、欧米諸国でも付加価値税(VAT)の課税・還付のあり方は国ごとに大きく異なり、社会的コストを考慮して軽減税率・免税枠・所得税補完で調整している。
日本のように、「一律10%・輸出全免税・大企業還付集中」という構造は例外的である〔※4〕。
■ 結論:数字は正しくても、構造が誤っている
会計上の数字が合っていることと、社会的に正しいことは別だ。
「帳簿の整合」が「正義の証明」にはならない。
むしろ、整合性を保ったまま搾取を成立させることこそ、制度的暴力の最たるものだ。
消費税は、“見えないところで”産業の基礎を削っている。
それを正面から議論しない限り、どれほど景気対策を打っても日本経済の血流は回復しない。
だから、答えは単純だ。
-廃止。
それが最も合理的で、最も人間的な税制改革の出発点である。
〔出典・参考資料〕
※1 国税庁「No.6551 輸出取引の免税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6551.htm
※2 プレジデントオンライン「トヨタが受け取る“輸出戻し税”の仕組み」
https://president.jp/articles/-/8619
※3 全国商工団体連合会「輸出戻し税の実態」(2024年9月23日)
https://www.zenshoren.or.jp/2024/09/23/post-34069
※4 欧州委員会 Taxation and Customs Union「VAT refunds (Directive 2008/9/EC and 13th Directive)」
https://taxation-customs.ec.europa.eu/taxation/vat/vat-directive/vat-refunds_en