2025年5月3日土曜日

高齢シングル女性の貧困問題について──社会構造を見失った議論に思うこと

 先日、Yahoo!ニュースに掲載された以下の記事を読みました。

就職氷河期世代の単身女性に警鐘「低年金で保証人もいない」“おひとりさま”老後のリアルな声

https://news.yahoo.co.jp/articles/1c122adcf89e41cfde48e9829db91ac937dcd331

この記事は、主に「高齢の独身女性が、職を失ったり、低賃金で働き続けたりしながら、社会的にも孤立しがちである」という実情を描き、最低賃金引き上げや行政支援の拡充を提案しています。

しかし、読み進める中でいくつか強い違和感を覚えました。


1. 「女性だけの問題」ではなく、もっと普遍的な問題

「例えば『教育訓練支援給付金制度』。同制度は失業時の資格取得費用を一部サポートするものですが、45歳未満を対象としています。資格を取得して再就職や収入アップにつなげたくても、年齢ではじかれる中高年シングル女性は利用できないのが現実です」

(記事より)

これは、たしかに厳しい現実です。ですが、これは本当に女性だけの問題でしょうか?
就職氷河期世代をはじめとする中高年の多くが同様の状況にあります。

年齢を重ねてからの転職・再就職が厳しいのは、男女を問わない構造問題です。未経験職種においては、むしろ給与が下がることすらあります。それにもかかわらず、この記事では「女性だから」「高齢だから」と問題を特定し、そこに解決策を限定してしまっています。


2. 構造分析の欠如と自己投影的な議論

この記事では、いくつかの調査や統計が引用されていますが、筆者の理解は常に「自分の経験」ベースで展開されており、構造的な分析に乏しい印象を受けました。

「回答者は皆さん、将来に不安を感じています。『病気や介護が必要になったらどうするか』『仕事を続け、十分な賃金を得られるか』『低年金・低貯蓄で高齢期に生活できるのか』と。また、おひとりさまの難題として、病院や介護施設に入るときに求められる『身元保証人』の確保を心配する人も少なくありません。子育て世代には手厚い支援をしながら、中高年シングル女性の不安は解消しようとしない。調査結果を通じ、私たちが社会や政治に無視され続けていると実感しました」

(記事より)

当事者の視点は貴重ですが、個人的な体験と社会全体の構造とを混同するのは危険です。この種の議論がメディアに載ると、「個人の苦しみ=社会の構造的課題」と短絡的に捉えられ、政策的な優先順位が歪められてしまう懸念があります。


3. 「最低賃金を上げれば解決」という錯覚

「中高年シングル女性が安心できる“居場所”が必要。でも実現にはまだ時間がかかるでしょう。国に対しては老後貧困対策として、最低賃金のアップと家賃補助の強化を第一に強く求めたいです」 
(記事より)

最低賃金を引き上げたところで、「仕事があること」「まともな雇用条件であること」「継続的に働ける環境であること」が保証されるわけではありません。

労働市場の構造や、企業側の採用慣行が変わらない限り、「賃金だけ」の引き上げでは問題の本質に届きません。必要なのは、雇用制度・再教育制度・社会保障制度を横断した構造的な対応です。


4. 本当に必要なのは「共通の視点」と「構造的な理解」

筆者が語る苦しみは、たしかに現実の一側面です。ですが、その背景には、男女・年齢を問わず多くの人が共有している「労働市場の硬直性」「教育と職業スキルのミスマッチ」「自己責任論の蔓延」といった共通の問題があります。

必要なのは、「女性だから」「高齢だから」と分断を助長する視点ではなく、社会全体の構造の中でどうすれば人々が生きやすくなるのかという視点での議論です。


おわりに

筆者の体験には耳を傾けつつも、それを社会全体の姿として描くには、もっと広い視野が必要です。限られた事例を社会問題として拡大解釈することなく、構造的理解に基づいた冷静な議論を求めたいところです。

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